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対談 松崎史也×伊藤今人(梅棒)舞台「マッシュル-MASHLE-」THE STAGE~第2弾に挑む、勢いを増した全演劇力~

2023年7月に上演され、爆笑と熱狂のうちに幕を閉じたシリーズ第1弾で総合演出を務めた松崎史也と、第2弾でも引き続き演出を手掛ける伊藤今人。20年来の“戦友”である二人が、協働でつくりあげた初演を振り返りつつ、伊藤の単独演出となる今作への期待と意気込みを語った。

“ハチャメチャにして王道”な「マッシュル-MASHLE-」×今人イズム

――お二人の出会いは大学時代。演劇学科の先輩後輩という間柄です。

伊藤 演劇学科って全学年で一つの組織みたいなものがあるんですけど、史也さんは僕が入学したときの4年生で、組織の長だったんですよ。縦社会の演劇学科では1年生にとって4年生は“神”で、史也さんはそのリーダーなので“神のなかの神”みたいな人ですね。そこに“トップオブ問題児”として入っていったのが僕です。

――「マッシュル-MASHLE-」で言うと、神覚者と異端児・マッシュのような関係ですね。

松崎 その表現は誇張…入ってないんですよ(笑)。今人はとにかく元気だった。

伊藤 無礼だったんですよね。演劇の大学に入ってくる人って結構みんな「自分が一番やれるぜ」って思ってるんですよ。そのなかでも一番勘違いしたやつでした。

松崎 「せっかく演劇をやりにきてるのに、こんなに“前ならえ”な環境でつまらなくないですか?」っていう勢いでしたね。でも正しかったんだと思います。彼は後輩に慕われる人だったし、先輩にもすごく愛されていて。大きなダンスサークルのリーダーになって、たくさんの学生たちとダンスをつくりつづけていた。その後の役者や振付師、演出家としての活躍も見ていたのでぜひ一緒にやってみたいなと思って、僕が30歳ではじめて演出をした作品に振付師として参加してもらいました。

――その後さまざまな作品でご一緒され、2023年には「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEを手掛けられます。原作漫画「マッシュル-MASHLE-」にはどのような印象を受けましたか?

伊藤 主人公のマッシュが大事にしているものはシンプルで、おじいちゃんと平穏に暮らしたいっていうこと。そこから大切なものがだんだん増えていくっていうストーリーではあるんですけど、最初は「ほかのことは目に入らない」くらいの勢いで突き進んでいくし、相手を打ち負かしていくプロセスも、少年漫画らしい順序立てた訓練とか努力みたいなものをぶっ飛ばしてグーパンで打開していく。これまでの少年漫画の王道である、敵へのヘイトをすごくすごく溜めて主人公がドーン!ってぶっ壊していくカタルシスと、王道から少し外れたものがいい具合に合わさっている漫画だなと思っています。王道漫画としての読後感はちゃんとある、そこの芯はしっかりしているけどパロディやメタなネタもあってハチャメチャに行く、というのが僕も好きな表現の仕方なので、この作品に出会えて、演出を任せていただけたことにご縁を感じています。

松崎 それって、もうすっごく“小劇場”なんですよね。衝動を持て余している魑魅魍魎たちが「とにかくおもしろいことをやるんだ」と思って集まっている小さな劇場にすごくアイデアが詰まっていたり、ワンダーがあったりする。それが「週刊少年ジャンプ」という大看板のなかで読者を楽しませているのがすごく爽快で、“持たざる者の逆襲”とか“努力一つでその道を進んでいく”ところには、自分たちの活動に近いものを感じます。今人も僕も小劇場で演劇をはじめたし、特に今人がやってきたゲキバカや梅棒という集団(*)と「マッシュル-MASHLE-」という作品は、イズムがものすごく近いところにあるという印象でした。

*劇団ゲキバカ…伊藤は俳優・振付師として活動。2024年3月10日をもって惜しまれながらも解散した。
*梅棒…伊藤が代表を務めるノンバーバルなダンスパフォーマンスで劇を創作するチーム。主催公演だけでなく数々の演劇・ミュージカル作品やライブ、MV等の演出・振付を手掛ける。

対談

全員が前のめりに取り組んだ、パワーあふれる初演の稽古場

――初演では伊藤さんが演出を、松崎さんが総合演出を担当されました。どのような体制で作品づくりが行なわれたのでしょうか。

松崎 総合演出として僕の名前が入っているんですが、「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEはそもそも今人の単独演出作品と思っていただいて間違いないです。演出の99%は今人がつくっていて、僕がやった残りの1%は今人の話し相手というか(笑)。困ったときだけ言ってね、みたいな感じでした。

伊藤 それがめっちゃ大事なんです。自分の演出に自信をもってやることはできるんですけど、この規模感の2.5次元作品の演出をするうえで踏まえておかなければいけないことだったり、僕の経験不足から起こりうる視野の狭まりとか手が回らないところに対して、史也さんが気を配ってサポートしてくださいました。出演者のなかには僕より史也さんのほうが繋がりが深い人もいたりしたので、僕がスタッフワークとかクリエイションのほうに時間を割かれているときに、代わりに役者とコミュニケーションを取ってくださったり。史也さんがいてくださったおかげでクリエイションに集中できたという感覚があります。

――「この規模感の2.5次元作品」とのことですが、作品の“規模感が大きい”というのは?

松崎 二つありますね。一つは、キャスト、スタッフとして参加する人数が多いこと。もう一つは、お客さんの人数も増えること。まず、演劇って短い期間のカンパニーでつくりあげるものなので、そのなかで不協和や不幸せがなるべく起こらないほうがいいんだけれども、人数が増えれば増えるほどその可能性が上がっていくし、誰かにしわ寄せが行っているのにそれが見えない、みたいなことが起こりやすくなっていくんです。それは規模によって明確に変わることなので、なるべく視野を広げていく必要がある。

伊藤 この規模感とスケジュールで、何を優先してそれぞれどう取り組んでいくか取捨選択することの重要性を、初演の稽古で改めて痛感しました。芝居だけじゃなく歌、ダンス、アクション、映像や舞台装置とあわせた動きだったり、とにかくやることがたくさんあった。だから演技自体と向き合える時間の割合も減ってしまうんですけど、役者も自発的に演技プランを組んで自分たちからプレゼンしてくれるっていうとても素敵な俳優たちだったので、ものすごく助けられましたね。

松崎 今人のうらやましいところは、そういうまわりにいる全員と相思相愛になるところですね。役者はもちろん殺陣、小道具、歌唱指導とかいろんなセクションの人がいるなかで、「今人さんのためにもっとやろう!」「今人といい作品をつくるんだ!」っていうポジティブなパワーがみんなからものすごく出る。人柄も誠実さもあると思うし、彼もそういう声掛けをしていると思うし、今人が引っ張っている稽古場はすごくパワーが満ち満ちています。

伊藤 まわりを巻き込む力っていうのは史也さんから一番学んだことで、僕は史也さんになりたくてやってるんです。みんなが自分から前のめりに取り組んでいこうって思える座組の空気感にしたい。けど、史也さんと僕とは出力の仕方が全然違くて。史也さんはまわりの話を聞いて「ですよね」「ですよね」って頷いているとみんなが「史也さんっ!」ってついてくる、それが松崎史也流。僕は「やりましょうよ!この作品一緒に!やりましょうよ!」って声を掛けて、「今人さんがそんなに言うならやるか」って思ってもらうのが僕流です(笑)。

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観てくれるすべての人のための演劇をつくりたい

――作品の“規模感”のお話でもう一つ、「お客様の人数が増えること」についても教えてください。

松崎 劇場の大きさだったり公演数によってお客さんの人数が増えると、ここについては最大公約数を取るのか、クリエイトの真ん中を取るのか、原作の真ん中を取るのかっていう選択を都度、都度していく必要があるんです。作品の規模感によってその対象の幅が変わるから、「つくりたいものをつくることが至高」というわけではないと、やっぱり思います。

――演劇全般が好きな方もいれば、とりわけ2.5次元作品が好きな方、原作や俳優が好きという方まで、さまざまな方がご覧になる2.5次元作品だからこそ、という意味で伊藤さんが意識されたことは?

伊藤 僕もいろいろな2.5次元作品を観に行くんですけど、そのなかでも自分がより心をつかまれた作品は、原作を知らなくてもその原作の何がおもしろいのかがちゃんとわかるんですよね。やっぱり観客の立場としては、原作を読んだことがなかったり、出演している俳優のファンではなかったり、ましてや演劇を観たことがなかったりしても、この作品はここがおもしろいんだ!って教えてほしいんですよ。もちろんいろんな作品があるので、原作を知っている前提のつくり方が一概に悪いということでは決してないんですけど、僕自身はそうしてくれると嬉しい。だから、基本的には“原作を知らない人に、原作の魅力が伝わること”に焦点を合わせたいと思っています。

松崎 うんうん。

伊藤 初演も“「マッシュル-MASHLE-」らしさ”はすごく意識しましたし、脚本の亀田さんも、原作の魅力をちゃんと残しながら、伊藤今人が演出するにはこうだよね、という台本を書いてくださったので、めちゃめちゃやりやすかったですね。

――松崎さんは初演を客席からご覧になっていかがでしたか?

松崎 めちゃくちゃおもしろかったですよ。「マッシュル-MASHLE-」のおもしろさは「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEにめちゃめちゃ詰まっていた。開演前のドラゴンが飛んでくる映像からもう、楽しませようという意図が行き渡っていて。オープニングで音楽がかかって、みんなでワーって踊ったあとに、マッシュがガシャンガシャンって音を立てながら筋トレしながら出てくる。これって、演劇の技術としては意外と一本道じゃないんですよ。一旦かっこよくオープニングを締めてからおふざけをはじめればいいのに、あのタイミングでコミカルさを入れられるのは、今人が培ってきたゲキバカのセンスと梅棒のノウハウがあってこそだと思うんですよね。
「マッシュル-MASHLE-」っておもしろいことが正義だから、あれは紛れもなく「マッシュル-MASHLE-」だなと思います。こんなアイデアで見せるんだ、ここをこんなに豪華に振り付けてくれるんだっていうこともそうだし、そこに対してIQ高く感じさせないっていうのも本当に大事で。お高くとまってないから、観客席は「みんなで一緒に楽しんじゃおう」っていう空気に包まれている。それってものすごい特殊能力だと思います。

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バトンを繋ぐことで目指せるさらなる高みへ

――今回の第2弾は、伊藤さんの単独演出という形になります。

松崎 今人は“大学の先輩”だった僕のことをすごく立ててくれるんですけど、演劇界のなかで彼がすでに成し遂げている功績を考えたら、本当は先輩後輩として何かを言うような関係性じゃないんですよ。そもそも「マッシュル-MASHLE-」THE STAGEは、今人がこれまで培ってきた“全演劇力”でやればめちゃくちゃおもしろくなる作品で、それがこの作品の魅力を一番爆発させてくれる形だから、初演と変わらず、でももっとパワーアップした第2弾ができる。彼の演劇を楽しんでいる一人として、今回も観に行くのを楽しみにしています。

伊藤 僕は第2弾、続編のようなものをやるのがはじめてなんです。漫画・アニメの「マッシュル-MASHLE-」や初演を知らない方、今回はじめてご覧になる方も置いてけぼりにせず、むしろ初演から観てきたかのような感覚になれるように、主演の赤澤遼太郎はじめキャスト、スタッフのみんなと一緒により飛躍した表現方法でよりスペクタクルな作品に押し上げていきたいですし、それが初演で総合演出として入ってくださった史也さんへの恩返しになるだろうとも思っています。
初演でランス・クラウンを演じてくれた石川凌雅の“卒業”にあたっては、抜群のランスを見事に表現してくれた恩もあるし、また一緒にやりたかったという気持ちはものすごく大きいんですけど、彼の進んでいく道も応援しています。そして、中山清太郎というまた新たな魅力に満ちた若い役者がランスを引き継いでくれます。彼もすごい輝きを秘めていて、ビジュアル撮影でもすでに「うわ、すごい仕上がり!」と思いました。
少し話が飛躍しますが、史也さんが後輩の僕にバトンを渡していってくれている演劇の循環と同じように、役者の間でもバトンを渡し合って上乗せしていって、立ち上げたときよりも引き継いだ人がさらに押し上げていくことで、演劇界はもっとよくなっていくと僕は思っています。そういう意味では、今回キャストが変わってしまうのは悲しいことじゃなく、素敵なことなんじゃないかなと思っているので、そういうところも楽しみに観ていただけたら嬉しいです。

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